博士号取得を目指して

Educational step

現在さまざまな種類の手術、治療が行われていますが、現在の治療では救えない命があるのが現状です。新規治療の開発や疾病のメカニズムの解明が常に求められています。

「研究」と聞くと難しいイメージが湧くかもしれません。壮大なイメージを持つ方はいらっしゃるかもしれません。当科では、実際に新規創薬に向けた基礎的な実験や、疾病のメカニズムの解明を目指した研究が行われています。医師は科学者であり、研究者です。その一歩目を開始するプログラムになります。

Q1「外科医になりたいのであって、研究者になりたい訳ではないのですが?」

→当然、最初から研究者になるわけではありません。当科のスタッフの本業は臨床医として手術を行うことであることは変わりありません。しかし、現在の治療のみでは治療に限界を感じることは臨床ではしばしば経験します。そんな限界のところにいる患者さんも救いたい、と強い気持ちが生まれたら、きっとそれだけでも研究者の一歩なのだと思います。何も細胞やネズミの実験だけが研究ではありません。臨床研究、新規治療への積極的な導入も立派な研究者の仕事になります。「今までにない新しいものを作り出す」そんな体験を一緒にしませんか。

Q2「実際どういった学年から行うのか」

→外科医としての業務もあるため、外科専門医予備試験を合格してから、研究を行うか(大学院への進学)を検討する先生が多いです。3年目から研究をしている先生もいます。

Q3「自分には難しそう。できないと思うのですが..」

→これもとても自然な感情です。手術も研究も一朝一夕で完成されるものではありません。ひとつひとつステップを経て学んでいくものになります。実際に研究をしている多数の先生もそう感じていたと思います。むしろ実験なんてするつもりじゃなかったと思っていた先生もいると思いますが、当科では自然な流れでたくさんの先生が学位を取得しています。

Q4「研究をしている間の収入はどうなるのでしょうか」

→当科では、研究中も病院での勤務の継続(外来業務を主)し、外勤も継続されるため、一般的な労働者としての一定の給与は保証されています。また病棟業務から一時的に離れるために、on callで対応することが無くなり、研究に集中しやすい環境となります。一定の業務は分配されますが、基本は午後からは十分に研究にとりくむことができ、夜中の実験が強制されるような事態になることはありえません。

Q5「実際にどういった研究をしているのか」

→興味を持って頂けて幸いです。研究紹介のサイトを参照下さい。ただし、これからの研究を作っていくのはみなさんです。興味深いテーマがあれば、一緒に新しい研究を行って行きましょう。

臨床と研究

西野先生

2021年末に学位を取得し、晴れて医学博士となりました。

研究は「膵島移植における新規冷凍保存法の開発」を行いました。「福井」であることの強みをいかして、福井大学工学部や福井県食品加工研究所、(株)エル・ローズ(福井県の会社)が産学連携で研究しているフルクタンを応用しました。

研究は想定通りにいかないことも多々ありました。そのたびに実験方法の工夫や、データの分析や考察が必要であり、日々考察して工夫していくことの大切さを実感しました。これは現在の仕事の主体である臨床医としても身になっており、研究を通じて自分自身が得られた成果でした。

手術や臨床現場では日々どうすればよりうまくできるか、より患者さんの苦痛を減らせるか、よりよい治療はないか、など課題が出てきます。これまでの経験や知見を分析・考察して工夫をし、さらにその結果を考察し新たな工夫を行っていくことで、自分も世の中の医療の進歩に貢献できるようになると思います。

今後も工夫を積み重ねてより良い治療を提供していけるように努力していこうと思います。

平成22年度入局:西野 拓磨 先生

学位取得を通して得たもの

田海先生

2022年3月に学位を取得することができました。大学院生としての期間で得られたものは大きく3つあります。

1つ目は、英語論文を大量に読むことで英語論文を読むことに抵抗がなくなりスムーズに読めるようなったことです。また研究結果を学会で発表する機会もそれまでよりかなり増えましたので、発表の良いトレーニング期間にもなりました。

2つ目は、医療を研究の視点から考えるということを経験できたことです。研究デザインからその研究の妥当性、結果のどの点が新しい発見となり知見の蓄積となるのかなどを意識する思考が養われました。

3つ目は、分子標的治療薬や免疫療法などの作用機序について理解が深まったことです。研究過程で発癌、浸潤、転移などに重要な機構を学ぶことで、薬剤のターゲットとなるタンパクやレセプターがどのような役割をしているものかをより深く理解することにつながりました。

大学院卒業後に臨床に戻ってからは、目の前の患者さんに起きている変化にさらに細かく注意し、より科学的な目で臨床を見るようになっている自分に気付きました。そのような視点が自分の財産であり、次の発見に繋がっていくのかなと思っています。

平成24年度入局:田海 統之 先生

博士号取得と外科医としての成長を目指して

坂本先生

私は、卒後5年目(第一外科入局後3年目)で大学院へ入学し、現在3年目を迎えております。外科医を目指して第一外科に入局した当初は、「大学院入学、研究、博士号取得」というもののイメージが全く湧かない状態にありました。しかし、第一外科の先生方が日々の臨床業務と並行して、自ら行なった治療法や手術手技を検証し、数多くの学会、論文発表を行っているのを目にし、それを可能としているのが博士号取得のため大学院時代の研究で培った経験にあるのではないかと感じました。現在では、今後の外科医としての実力をより向上させるため、また最善の医療を提供するためにも、大学院、研究、博士号取得が必須の経験であると考えております。

現在私は、大腸癌患者の再発予測因子となる新規バイオマーカーをテーマに研究を行っています。初めは、実験手技や情報の解析方法などに関する知識がほとんどない状態からのスタートでしたが、先輩先生方が積み上げてきた研究実績や実験手法を一つ一つ丁寧に指導して頂けるため、一歩一歩着実に研究を進めることが出来ております。

また研究カンファレンスで定期的に得られた研究結果を報告し、先生方また大学院生同士で意見を交わすことで、自分一人では気付けないアイディアや更なる研究アプローチを見出すことが出来ます。

研究を行なっていく中で、時には自分が思い描いた結果が得られず、試行錯誤を繰り返しておりますが、どこに問題があるのか、どう工夫すればよい結果が得られるのかを自ら考察し、実行する過程こそが、これからの外科医人生をより良いものへ変化させてくれる経験だと思い、博士号取得に向けて、充実した研究生活を送っております。

令和元年度入局:坂本 裕生 先生

臨床から研究に移ってわかること

辻際先生

福井大学附属病院に入局し、はや5年目。最初の3年間は、病棟で臨床に携わる機会を多くいただいた期間でした。良性・悪性を問わず、たくさんの手術を経験させてもらえただけではなく、重症な患者さんの管理など、外科医としてだけではなく、医師として実務的に大きく成長を感じることができる日々でした。

入局4年目になり、博士号取得を目標に大学院生として働くとなったときに、最初はあまり興味を持てませんでしたし、臨床から離れることの不安もありました。しかし実際には、大学院での研究を進める際に、実臨床での手術適応や治療法の是非などを考える機会は3年間の臨床期間よりも多く、今までの実臨床での行いに知識の裏付けがついてくるような感覚がありました。また、以前は苦心していた文献などの調べものに関しての見地も深まり、以前よりもむしろ臨床に対しての興味が強くなったと感じます。

こういった実感が持てたのは、実臨床と地続きで研究が行える福井大学だからなのかもしれません。研究を行える現場と機会を与えてくれる大学と、いつもご鞭撻くださる指導医の先生方への感謝を忘れることなく、博士号取得に向けてこれからも頑張りたいと思います。

令和元年度入局:辻際 裕介 先生